柳田邦男 著 『人生の1冊の絵本』から

先の見えない日々が続きます。ウィルスと闘ってくださる医療従事者の方々の安全を祈らずにはいられません。自分たちにできる小さな努力を積んで、図書館がまた平常の開館を迎えられる日が待ち遠しいです。

 

柳田邦男氏の新刊『人生の1冊の絵本』をご紹介します。

『人生の1冊の絵本』(柳田邦男 著 / 岩波新書)

『人生の1冊の絵本』(柳田邦男 著 / 岩波書店)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳田邦男氏はノンフィクション作家で、「大人の気づき、子どもの心の発達」をキーワードに、絵本の普及活動に尽力しておられます。絵本専門士の旗揚げにも関わられ、精力的な活動を展開しておられます。今回の新刊では、150冊ほどの絵本が紹介されています。その中から、印象に残った1冊をご紹介します。

『おじいちゃんのトラのいるもりへ』

『おじいちゃんのトラのいるもりへ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「おじいちゃんのトラのいるもりへ」は、福音館書店の月刊雑誌「こどものとも」の2011年9月号として刊行されました。作者は、書家の乾千絵(いぬいちえ)さんです。ちなみに、乾さんは、右半身に障がいがあり、左手で大きな筆を持って書を制作されている方です。やはり同じ福音館書店から発行されている絵本『月人石(つきひといし)』は、乾さんの書による「風」「馬」「人」などの力強い文字をモチーフに、谷川俊太郎さんの詩と川島敏生さんの写真で構成されています。とても印象的な絵本ですので、機会があればぜひご覧ください。

 

表紙のトラは、力強くまっすぐにこちらを見据えています。物語の主人公は、サカという名の少年。サカは、村いちばんの太鼓の名人であるおじいちゃんが大好きでした。ところが、ある日急におじいちゃんが亡くなってしまいます。寂しさのあまり、太鼓に布をかぶせてしまうサカ。悲しみにくれるサカのもとへ、トラが現れます。おじいちゃんに会わせてくれるというトラの背に乗り、サカは森の奥へ。サカはそこで、おじいちゃんの魂を宿したトラに会うのです。

 

この絵本についての柳田氏の文章を紹介します。

「絵は、あべ弘士さんだ。トラは大きなたくましい体躯だが、人の魂を宿したやさしい眼差しをしている。サカを乗せたトラが走る密林の熱帯雨林らしい原色の彩りの情景。特にサカがおじいちゃんのトラに会って村に戻ったときの朝焼けの淡いピンクの空や、そのピンクを映す淡い紫色の森を遠くに見つめるサカの澄んだ眼差しは、亡きおじいちゃんの魂を受け継いで明日を生きようとする少年のすがすがしさを表現していて感動的だ。」

大切な人を失った子どもの心をケアするグリーフワークをテーマにした絵本です。そして、絵と文章の調和がとてもすばらしく、幅広い年齢の子どもの心に届けたい絵本でもあると思います。

 

文学、音楽、絵画を当たり前に味わっていた日々がどんなに貴重だったかをかみしめています。

一日も早く、人とモノがつながれる日が来ますように。      (スタッフYN)